[読書メモ]『シャーロック・ホームズの冒険』(河出書房新社単行本)

  • 書籍
  • 2018年12月23日(日) 16:30

p32
ホームズが必ず成功を収めることに馴れてしまっていたわたしは、彼が失敗するなどとはまったく思っていなかった。

p74
全体の印象にとらわれないで、細部に注目するのだ。

p77
わたしの友人の、すばらしい推理能力とたぐい稀な活動力については、さまざまな理由から、わたしは強く信用していた。

p138
「明らかな事実ほど当てにならないものはないね」

p139
ぼくには彼にはできない方法で、あるいは理解さえもむずかしい方法を使って彼の理論を肯定することも、否定することもできるつもりだよ。

p163
「でも、どうしてわかったのかね?」
「ぼくのやり方は知っているだろう。ささいな点の観察によってだ」

p202
「空腹のようだね」わたしは言った。
「飢え死にするところだよ。食べることまで思いが到らなかった。朝食のあとは何も食べていないのだ」

p288
ホームズの事件調査に立ち会って、彼が難問を解決するときに見せる見事な推理をほめたたえることほど、楽しいことはない。

p326
「ぼくもね」と、彼は言った。「初めは全く間違った結論を出していたんだよ。このことで、データが充分に揃っていないところから結論を出すのが、どんなに危険であるかがよくわかったよ、ワトスン。[…]」

p340
『わたしにとって、時間は貴重なので』

p348
わたしは生まれつき強情なたちで、邪魔が入るとますます深入りしたくなるのです。

p493
メアリ・ジェーンとは、メイドを総称する名前(「トミー・アトキンス」が兵隊の総称であるのと同様)である。”slavery” とは、本来単調な骨折り仕事を義務とする、下働きのメイドを指した言葉だった。

p504
英国国教会の牧師に変装することは、当時、法律で禁じられていた[。]

p581
キャピタル・アンド・カウンティ銀行[…]アーサー・コナン・ドイルは、この銀行のオックスフォード街支店に自分の口座を持っていた(シャーロック・ホームズも、同じ銀行の同じ支店に口座を持っていたことが、『シャーロック・ホームズの生還』所収の «プライオリ学校» で明らかにされている)。

p587
こじきのブーン(beggarman, Boone)
さくらんぼの種を数える際の、語呂合わせを連想させる言葉である。Tinker, Tailor, Soldier, Sailor, Rich man, Poor man, Beggarman, Thief.〔「鍵掛け屋、洋服屋、兵隊さん、水兵さん、金持ち、貧乏人、乞食、泥棒」の意〕

p602
ジョン・ロビンスン
偽名としてはありふれたものである。’Before you say, “Jack Robinson”‘〔あっというまに、の意〕という、よく使われる言い回しを想起させる名前である。

p603
陶製のパイプ〔[…]«花婿失踪事件» «赤毛組合» «パスカヴィル家の犬» にも登場し、考えごとをするときにホームズが愛用した〕

p625
莫大な富の相続人である米国人女性と、財政的に困窮状態にあった英国の貴族階級に属する男性との結婚は、当時よく見られた現象だった。

p625
「美しい娘であるかのように振る舞っていますよ。大概のアメリカ人女性がそうであるように。それが彼女達の魅力の秘密なのです」

p652
当時電報は、黄色、ピンク、もしくは緑色の封筒に入れられて配達されていた。

p664
ドイルはオリヴァー・ウェンデル・ホームズの作品を何度となく読んでいた。シャーロック・ホームズ物語における、温もりのある会話の雰囲気は、オリヴァー・ウェンデル・ホームズの作品に由来するものである。

p665
これは当時、シャーロック・ホームズ物語がなぜあれほど当たったのか、その理由の一端を充分に説明するものであろう。即ち読者にとってシャーロック・ホームズ物語が、一風変わった世界へのいざないだったのである。ドイルの作家としての弱点は、シャーロック・ホームズ物語を執筆する際には、長所となった。彼は浅薄なものを価値あるものへと作り替えた。うわべを飾ることが、うってつけだった。さらに矛盾だらけの、ありそうもない構想の物語を書くことができた。このようにして書かれた物語のいくつかは、英語で書かれた最も忘れがたい物語となった。これたの物語は、時にとても実際には起こりそうもないと、読者に疑念を抱かせるすれすれのところまで行ったこともないではない。しかしその過程で、これらの物語は伝説としての性質を帯びていったのである。

p678
英米ではシドニー・パジェットの挿絵入りの復刻版が、いろいろな出版社から出されている[。]

p679
パジェットはその後、『シャーロック・ホームズの回想』、『バスカヴィル家の犬』、『シャーロック・ホームズの生還』所収の短編・長編の挿絵を担当したが、他の作品が書かれる前に亡くなった。

p683
海賊版は__«緋色の習作» や «四つのサイン» の海賊版も出版されていた__新聞連盟所属の各新聞紙上への短編の掲載よりも、シャーロック・ホームズの名前を広めることになったのである。

p684
「ドイルは、簡潔な表現がいかに快いものであるかを、またあらゆることは冗長なものになりがちであることを心得ている。だから夕食とコーヒーの間にゆったりと座って読むことのできる、また読み終わるまでに、物語の初めのほうを忘れるといったことが起こらない物語を書くことができたのである」

p686
物語の構成は独創的であり、語り口は上品で、夢中にさせてくれる本である[。]

p696
「ホームズ物語」にメアリという女性が9人登場するが、全員が悪人か不幸である。

p697
ドイルがほとんど毎日のように母親に手紙を書いていたことだ。一見、母親を愛しているように見えるが、「過ぎたるは及ばざるが如し」であって、過剰な愛は見せかけの愛であり、精神分析ではこれを反動形成と呼んで、憎しみをカムフラージュしたものと見ている。

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