[読書メモ]『バスカヴィル家の犬』(河出書房新社 単行本)
- 書籍
- 2020年02月27日(木) 06:56
p50
この世界というのは、わかりきったことばかりで成り立っているのだけど、誰もがそれをしっかり観察しているわけではないのだ。
p146
あの男は、なかなかの男前だから、純情な田園地帯の娘の心を操るのはわけもないはずだ。
p174
もしわたしに、長所と呼べるところがあるとすれば、それは常識に富んでいるということだ。
p201
裁判に私利私欲をもちこまないことがわしの自慢だ。わしは社会のためだけに動いているのですよ。
p202
この年寄りの偏屈男に弱みを握られては、たまらない。
p203
何も知らずに話しましたと、わたしはしおらしく答えた。
p216
「彼女が独身の女性だと称しておいたほうが、より便利な使いみちがあると踏んだのだろう」
p219
あの冷静沈着な彼までが激しく動揺しているのだ。
p226
「ぼくは推測はしないよ」
p231
最も頭の切れる犯罪者というのは、彼もそうだろうが、自分の頭の良さに酔いしれてしまうものなのだ。
p231
猟犬は死体には噛みつかないものだが。
p283
ムアでの生活は、君が思うほどはつらくはなかった。そもそも、このようなささいなことで、事件の捜査に支障をきたしては困るからね。
p309
《最後の事件》(1891 年に起きたものとされる)でホームズは、「一千件以上の事件を扱った」と語っている。
p313
ダートムアから囚人が切り出した花崗岩が二代目スコットランド・ヤードの建物に使われていることは有名である[。]
p317
別々の専門分野を一体化するアーサー・コナン・ドイルに特徴的な方法である。
pp325-326
国王が男性の場合は “Regina” が “Rex” になる。
p326
訴訟狂
p328
ワトスンがすぐに、言いよどむ事もなく、更に説得力を持った嘘をつける例の一つとして、医学的な診断を下す場合が挙げられる。医者は時として、本来ならば告知をすぐに出さなければならぬ状態であっても、あえて告知を出さぬことで患者の関心を逸らすよう求められる場合もあり得るのである。
p332
ヴィクトリア時代にあっては、アンソニーは英国人の使用人の呼び名として、アントニオはスペイン系アメリカ人の使用人の呼び名として、慣習的に使われていた[。]
p336
今日は二人で荒れ地を 14 マイルも走り回って、心地よい疲労感に身をひたしています。
p342
しかし衆知のように、作者の意思というものは実に微妙なものであって、どこまで意識していたかを言明することは不可能ではあるものの、《最後の事件》において、ドイルは十分な抜け穴と隙間の残る結末で物語を締めくくっていた。
p342
彼が書きたいと願っていた歴史小説やロマンティックな小説は、時として根気の要る調査のみならず、洗練された文体と綿密な筆致が求められる。これに対して、ホームズ譚が無造作に書かれていたことはよく知られている。
p343
たしかにドイルは、編集者や、あまりに多くを求める一般読者に強いられる、自分に課せられた締切りや酷使というものを嫌っていた。
p345
いわゆるシャーロッキアンと呼ばれる人達、即ちホームズ譚が実在するワトスン博士によって書かれた本当の出来事の記録であると考える(ふりをする)人々に、格好の問題を提供することとなった。
p349
ホームズが物語の表舞台に現れないことで、荒れ地そのものを関心の対象として描き出すことが可能にもなっている。
p351
ドイル自身は、大半の読者と同様に犬が好きであった。
p354
ホームズはその存在の大半が理性の対象としてであって、それゆえに人間として温かく、思いやりのある存在ではない。しかしその知識、叡智、そして時には道徳的な気高さゆえに、彼は賞讃の対象となるのである。
p354
その他の登場人物について見てみると、ドイルの作品にたびたび登場する謎めいた女性が、《バスカヴィル家の犬》にも登場する。彼女たちは様相こそ異なっているが、いずれも男達の暴虐の犠牲者である。ホームズ譚には一貫して社会的な保守主義が流れているが、それでも彼女達の中には、旧式ではあるがフェミニズムが潜在している。
p355
訴訟に情熱を注ぐ人間としても描かれているが、これは彼が再現されることのない過去に固執していることを示している。
p355
趣味人(virtuosi)
p367
日曜画家
pp369-370
ステイプルトンは、蝶を捕らえるのを趣味としているが、蝶は西洋では、精神の象徴であり、また快楽を追う移り気な人つまり「浮気っぽい人」の象徴でもある。
pp376-377
記号論の述語「シーニュ(記号)」を交通信号の「赤ランプ」と考えるとわかりやすい。「シニフィアン」とは単なる「赤い色」、「シニフィエ」は「停まれという意味」にあたる。
【誤植】
p377
誤:述語
正:術語
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