[読書メモ][レビュー]『〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ』

『〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ』をやっと読了しました。

〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語 | マティアス・ボーストレム, 平山 雄一, ないとう ふみこ, 中村 久里子 |本 | 通販 | Amazon
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まず買う段階で躊躇していました。基本的に本は値段を見ずに買うように心掛けているものの(値段で足切りをすると良書に出合えなくなるので)、やはりちょっと高い商品なのでどうしようかなと思っていました。でも、Amazon の残り点数が少なくなってきたので、売り切れになれば二度と手に入らなくなる可能性もあります。Kindle 版もないことですし、慌てて購入に踏み切りました。

そしてせっかく買っても、その分厚さに積ん読の中でも読む優先度が低くなっていました。これに関しては「よし、ホームズ関連の積ん読を先に片付けるぞ」と思い立って読み始めました。

470 ページもある本で読むのが大変でしたが、すごい本でした。

ホームズ物語の誕生から、コナン・ドイルの人生、現在の派生作品の誕生までこれだけ総合的に書かれた本は初めて読みました。伝記風なのでありありと伝わってきてよかったです。

特にコナン・ドイルの人生については、この本の直前に『評伝 コナン ドイルの真実』を読んでいたのでさらに理解が深まりました。『評伝 コナン ドイルの真実』も分厚い本ですが、合わせて読むのがオススメです。

[レビュー][読書メモ]『評伝 コナン ドイルの真実』(河村 幹夫) – Sherlock Holmes Topia
https://sh-topia.cf/2021/10/24/reading-notes-hyoden-conan-doyle-no-shinjitsu/

最近はホームズ関連本に限らず、海外の人が書いた本が好きです。日本的視点に凝り固まらず、いろいろな見方ができるから世界が広がる気がします。本書も独特な雰囲気が気に入りました。

例えば、前の方にさらりと書いてあったことが、あとの方のページに繋がっていたりして、読んでいて油断ができません。

結構どろどろした話もストレートに書かれています。特に著作権絡みのドイル親族の話は知ってはいたものの、「知りなくなかったなあ」と思うようなこともはっきりと書かれています。ホームズ関係のことに関してはロマンティックな思い入れがあるので読んでいてつらかったです。

何十年にも渡るファン形成の歴史が描かれているのもホームズ本としては新しいです。

もう1冊買ってコレクションしたいと思えるぐらい読んでよかった本でした。

おまけに、こういう分厚いヘビーな本を読むと、他の普通の本を読むのがいかに楽かが分かりました。

以下はハイライトした箇所のメモです。

***

p25
医者には広告禁止の不文律がある。

p20
ノートにメモを取る習慣は以前からのことで、何年ものいだ自分の行動、読んだ本、頭に浮かんだ考えなどを書き留めてきた。細部や断片がいつか物語や記事や講演の原稿にと育つかもしれないと考えていた。

p21
どうしたら新しさを感じる探偵役をつくりだせるだろう?コナン・ドイルが求めているのは、より科学的で、犯人の失敗を当てにするのではなく自分の特性を生かして事件を解決する探偵だった。

p23
けっきょくのところ、たったひとりでも彼の作品を気に入って小説を出版する機会を与えようという人物がいれば、それでいいのだ。

p24
価格は一シリング、半月で販売は終了し、読みおわった後は理想的な着火材になる類いの冊子である。

p31
マントルピースの上には、今後半年間にやらねばならない仕事の詳細を箇条書きにして貼ってあった。計画があるとはいいものだ。

p37
ワトスン博士は読者の関心に声を与え、読者がたずねたい疑問を投げかけ、同時にいざ事件となればホームズの考えを明らかにする「反響板」の役目も果たす。

p52
鉄道網が拡大して列車通勤する人が増え、車内で読むものを買いもとめる習慣が定着しつつあった。

pp53-54
パジェットには、田舎への旅でホームズにかぶってほしい帽子ははっきりわかっていた。探偵が頭にかぶっているのは、絶対に鹿撃ち帽で決まりだ。つばが前後につくキャップ型の帽子。それにホームズは狩猟用の帽子をかぶっているべきなのだ。なんといっても狩りをするのだから――ただし獲物は鹿ではない。

p55
病床に臥しながら、コナン・ドイルはついにある重大な決断をするに至った。喜びと安堵から、そうした気分のときにいつもしているように、何かを投げあげたい気分だった。

p59
短編では、必ずしも殺人事件は題材となっていない。窃盗、詐欺、あるいは単なる誤解など、より凡庸な出来事も多い。

p64
コナン・ドイルは、通常、まず結末を考えるところから創作を始めると明かした。つまり、彼の技は、読者に結末をうまく隠しつつ、その終わりに向かって書き進めるところにある。一編を書きあげるのにおよそ一週間。アイディアはさまざまな状況で浮かんでくる。散歩やサイクリングに出かけているとき、クリケットやテニスをしているとき。仕事の日の一日は、朝食と昼食のあいだの執筆作業に始まり、ふたたび五時から八時ごろまで机の前にすわる。一日、およそ三〇〇〇語分は書くことができる。

p65
イギリスにはコナン・ドイルほど短編を書くのに熟達した作家はほとんどいないからだ。

p82
舞台でのジレットの演技は自然主義に基づいていた。台本で求められるとき以外、声を大きく張ることはしない。

p86
キットはただ読んでいるだけではなかった。注意深く学び、考えた。そのうえで弟のフェリックスとフランクにも無理やり読ませては、宿題と称して口頭で試験を課した。弟たちにもたださらりと読み流してほしくなかったのである。そのためにも、問題は細部にまつわる凝ったものをつくった。これで弟たちも、コナン・ドイルの作品のすばらしさに気づかないわけにいかなくなる。

p89
故郷で作家として、知人として働くほうが、戦地に赴くよりもずっと意義のある仕事をすることができるのだと。

p113
偽物の氾濫を抑える手段はただひとつ――どんどん新作を書くしかなかった。

pp120-121
コナン・ドイルはいったん執筆に取りかかると、難なく外の世界をいっさい締め出し、ただあふれる想像力とひらめきにまかせて休みもなく書きつづける。考えるために筆を止める必要すらないようだった。おしゃべりに興じる人でいっぱいの部屋で、ホームズの物語を一編書きあげたこともあった。列車のなかでも、それどころか雨で中断したクリケット競技場の控え室でも、書いた。

p137
自由とは、いくらあっても十分といえない、彼らにとって使うべき価値のあるものなのだ。

p156
玄関ドアの上の扇形をした灯り窓

p156
「ご存知かな」コナン・ドイルは言った。「わたしは人生で一度もベイカー街を訪れたことはないと思う。もしあったとしても、あまりに昔のことで、もうすっかり忘れているのだよ」

p171
仰々しく登場するのが彼の流儀なのだ。

p171
禁酒法時代からのやり方を貫いて、今も看板の類いは何もない。

p194
夫のトムは一見とっつきにくい男だったが、その皮肉なもの言いに実は親切でやさしい人柄が隠されていた。

p212
その後、イーディス・マイザーは夫のトム・マクナイトと離婚し、今、いちばん心を許せる相手は、ドクター・ワトスンという愛犬だった。

p226
そのものずばりの名称をつけるのは英国風で、アメリカの団体が遊び心に満ちた、ときには風変わりな名前をつける場合が多いのと対照的である。

p254
クッシングはパイナップルジュースを飲みおえた。「プロデューサーが鹿撃ち帽をやめてほしいなどとばかなことを言うんです。そんなのは眼帯をしていないネルソン提督みたいなものだと言ってやりましたよ」

p276
ホームズは、集まって話しあうのに格好の題材だ。

p295
「低俗なレストランなんだが、まあ、パリというのは、いささか低俗なところがあるからね」ハーウッドは、言った。

p296
ハーウッドが、ニーナなしでは生きられないと気づいたのはそのときだった。魂が似たもの同士なのだ。そういう絆は断ちきってはならない。

p301
書評家だけでなく、この本についてひとこと書いてくれそうな人なら誰にでも献本した。献本には必ずひとりひとりに宛てた手紙を添える。

p314
吟味なんかせず掃除機のように集めるのだ、とジョン・ベネット・ショーは言った。

p314
シャーロックの何々があるという話を小耳に挟んだら、とにかくそれを手に入れようと努めるし、今では周りの人がくれるようになってきた。

p315
イギリス人の客は、はじめは内気に思えたが、打ちとけると、とてつもなくおもしろい人だった。

p316
心やさしい人物だったが、 独特な考えを抱いてもいた。たとえば、才能ある作家なら自分の生みだした登場人物で作品を書けるはずだと彼女は考えていた。シャーロック・ホームズに乗っかって生活しようと考える凡庸な作家が多すぎる、と。

p322
ブレットはどこへ行くにもホームズの全作品をまとめた一巻本を手放さず、つねに脚本と原典を読みくらべていた。すべてを完璧に仕上げたいという意欲の現れだ。

p324
「あいつはモスクワーの問題児ですよ」

p324
興奮すると我を忘れる熱中癖

p326
コナン・ドイルはホームズを警察と対比させて描いている。ホームズの役割は悪人を罰することではなく、困っている人たちを助けることだ。

p340
ブレットは、自分の役柄の人物を完璧に理解してから演じる俳優だった。単にホームズのふりをするのではなく、ホームズになりきるのだ。

p340
ホームズは依頼人や証人に対して、冷淡で尊大な態度を取ることがあるが、ワトスンとの関係がホームズに魅力と温かみをもたらしている。これまでホームズを演じた俳優たちは、そうした面を掘りさげることはあまりなかったが、グラナダ版は友情の物語になっている。視聴者はそれを愛した。

p343
ジェレミー・ブレットは、とくに若い女性たちが胸を焦がす存在になったのだ。

p352
「インターネット」という呼称で知られるようになったこの手段は、シャーロック・ホームズファン同士が繋がって情報や意見をやりとりしたり、おしゃべりしたりするうえで、大変大きな役割を果たした。インターネットは急速に発展していた。一九九六年には全世界で二〇〇〇万人の利用者がおり、総数はひと月に一割ずつ増加していた。

p354
自分は吸い取り紙のようになんでも収集するタイプで、ド・ワールはすべてをリストアップして書誌情報を整理することに取りつかれるタイプなのだから。

p375
部屋のクロゼットに未発表の原稿を入れた箱をしまっておく――小説家としての人生をしめくくるにふさわしいエピソードではないか。

pp379-380
ハリウッドでは、非常によく似たふたつの映画がライバル関係にある別々の会社で同時につくられるということがちょくちょくある。これは「ツインフィルムズ」と呼ばれる現象で、火山の噴火から小惑星の衝突、アリやペンギンのアニメまで、さまざまなテーマの似たもの映画がつくられてきた。

p381
シャーロキアンのモットーである「ゲームを楽しむ」というのは、シャーロック・ホームズとワトスン博士が実在の人物であるという発想を受け入れること。そこから彼らの人生やふたりの登場する物語を、学術的とも言える精密さで研究するという取り組みが始まる。それと同時に、すべてが遊びであるという観点も大切だ。ただし、その遊びには大いに楽しく、真剣に向きあわねばならない。

p386
二次創作やファンダムと呼ばれるファンの活動は、ずっと昔から存在していたが、基本的にはコピーで製作した同人誌を仲間内で配布したり、手紙を通じてやりとりしたりという表に出ない活動が主体だった。しかし一九九〇年代終盤から二〇〇〇年代にかけて、コンピューターやインターネットへのアクセスが容易になると、こうしたファン活動の多くはネット上に場を移した。

p390
BBCのシリーズが大ヒットしてからというもの、シャーロック・ホームズのパスティーシュは前代未聞のペースで産出されつづけた。ひとつには、オンデマンドや電子書籍という形の出版が可能になったおかげで、以前よりパスティーシュが出しやすくなったということもあるが、やはりこのジャンルで、ベストセラーになった作品や高評価を受けた作品が何冊かあることが大きかった。

p393
「スラッシュ」とは男同士の同性愛を扱った二次創作を指す言葉だ。

p394
グラナダ版のホームズにも新しいファンがついた。『SHERLOCK/シャーロック』にのめり込んだものの、つぎのシリーズまではだいぶ間があくので、ホームズ・ロスに陥ったファンたちが、過去のテレビドラマや映画にまで手を広げて、ジェレミー・ブレットやバジル・ラスボーンら、愛するホームズを演じた別の俳優たちにあらためて出会ったのだ。

p403
コナン・ドイルは、死去したときから見ればはるか遠い未来にあたる二〇〇〇年代に入っても、自分の作品の著作権がこまごまと保護されているのを見たらどう思うのだろうか?

p412
副題に「偶像を作り出した人々の物語」とあるように、これは「シャーロック・ホームズ」というキャラクターの創造と発展と受容を本格的に総合し俯瞰した、世界で初めての研究書なのだ。

【誤植】
p117
誤:「タイム」紙
正:「タイムズ」紙

〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語 | マティアス・ボーストレム, 平山 雄一, ないとう ふみこ, 中村 久里子 |本 | 通販 | Amazon
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