意識的に忘れようとするのは愚かか
- 書籍
- 2023年01月23日(月) 05:53
『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』(立花 隆、文藝春秋、2001)を久しぶりに再読しました。
その中で以下のように書かれています。
p382
そのあたりのことは、脳が勝手にやってくれることだから、本人が悩む必要はない。どのレベルの記憶に入れるかのふりわけも、記憶の座の移動も、みんな脳がやってくれることだから、本人が悩む必要はない。脳のメモリー空間が足りなくなって、オーバーフローしそうになったら、脳は自然に重要でないことから記憶を忘却の座に移し、メモリー空間に空きを作ってくれる。「そろそろメモリー空間がきゅうくつになってきたから、もっといろんなことを早く忘れなくちゃ」といって忘れる努力をする人がいるとしたらバカである。そんなことは脳にまかせておけばよい。
『緋色の研究』(創元推理文庫)でホームズは以下のように言っています。
pp29-30
「驚いたようですね」私の仰天した表情を見て、彼がほほえみながら言った。「だがいまこうして知ったからには、これからはせいぜいそれを忘れるように努めなきゃ」/「忘れるように努める!」/「そう。つまりこういうことです――」彼は説明した。「――ぼくの考えだと、人間の脳というのはもともと小さなからっぽの屋根裏部屋のようなもので、ひとはおのおのその屋根裏に、選び抜いた家具だけをしまっておくようにしなきゃいけない。ところが、愚かな連中は、たまたま目についたものをなんでも見さかいなくそこに詰めこんでしまうから、おかげで、役に立つ知識もそのために押しだされてしまったり、あるいは、せいぜいよく言っても、ほかのがらくたのなかにまぎれこんで、いざというときに、とりだせなかったりする。そこへいくと、熟練した職人は、なにを自分の脳という屋根裏にとりいれるか、その点についてはきわめて慎重です。とりいれるのは、自分の仕事に役だつはずの道具だけですが、それでも、とりいれたものは非常に多岐にわたるし、しかもすべてが完璧に整頓されている。とはいえ、この小さな部屋の壁に伸縮性があって、どこまでもふくらますことができる、などと考えるのはまちがいのもと。そんな考えに頼っていると、やがて部屋が満杯になって、ひとつ新しい知識をとりいれるたびに、前に覚えたなにかがひとつ忘れられる、といった事態がやってくる。ですからね、なにより重要なのは、無用な知識が有用なそれを押しだしてしまう、などといったことが起こらないようにすること、これに尽きます」/「それにしても、太陽系の知識ぐらい!」私は抗弁しようとした。
知の巨人と名探偵、どちらの言うことが正しいでしょうか。
参考:
「地球が月のまわりをまわっている」問題 – Sherlock Holmes Topia
https://sh-topia.cf/2022/05/13/what-is-important-for-you/